・戦争
・責任
・中国
高市総理の台湾危機をめぐる発言による日中の対立は激化の一途を辿っている。もしこの問題について、日本は台湾という地域の独立を援護する正義の味方であり、横暴で野心を隠さない大国中国という悪に立ち向かっているのだなどという観念を抱いている者がいるとすれば、それは余りにも無知がすぎる。今年は戦後80年、その月日は一般的に考えて長い。2001年生まれの私などからすれば遠い過去の話である。だが、遠い過去となった満州事変、日中戦争、太平洋戦争は否応なく現在の種々の問題に連続している。先刻、中国を「横暴で野心を隠さない」と表現したが、それを聞いた中国人はせせら笑うに違いない。かつて、この東洋で最も横暴で野心を隠さず、満州、中国大陸、朝鮮半島、台湾、ミャンマー、ベトナム、フィリピン、マレーシア、シンガポール、南洋諸島、樺太を支配し、そして全てを失った国があったことを我々は認識しておくべきなのだ。満州事変から日中戦争に至る経緯を見てみれば、人数に比して圧倒的戦力を誇る日本軍に対して、蒋介石率いる中国軍は基本的に及び腰であった。中国は幾度となく譲歩し、万里の長城一帯に非武装地帯を設け、国内への密輸を看過し、領空侵犯(1)も見過ごすしかなかった。しかし、そんな彼らを、日本は追い詰めたのだ。結果として西安事変を経て、宣告から中国軍と評していたが、その実国民軍と共産党は手を組み、ついに侵略者日本軍の打倒に立ち上がった。中国と台湾の現行の関係には大いに日本の侵略が関わっていることをもしも全く認識せずに冒頭の観念を抱いているとしたら、これほどまでに愚かという文字が似合うこともあるまい。また、同じく高市総理がマレーシアの日本兵の墓を訪れたことに関するツイートに対するマレーシア国内の激しい炎上について、意外だななどと思っているのだとしたら無知も甚だしい。とにもかくにも、それら東洋を巻き込んだ甚大な事態が一応の終結を見て80年、私はその事態の加害の責を負った国の子孫として、自らに責任がないなどと宣うのは如何なものかと思うのだ。逆の立場に立てば自ずとその矮小な視界も少しは開けてくるのではないか?一体お前たちは日常を彩る漫画アニメから何を学んだのかわからないが、一体どこの世界に百歩譲って被害者ならまだしも、加害者自ら「もう忘れます」などと平気で言うことがあろうか。我々が国民国家という体系のもとで生きる以上、国民国家の歴史を一人ひとりが自覚し、背負うことがその円満な成熟の第一の条件であろうと思ってやまない。そして、我々がその国民国家の構成員であるからして、繰り返しになるが自らの責任を真摯に受け止め、具体的には「忘れないこと」これこそが最も簡単で、しかし、最も意義深いことであると思うのだ。
(1)岡部牧夫(1999)「十五年戦争史論 原因と結果と責任と」青木書店p71